癌ステージⅣを5年生きて 56

散骨の風ディレクター KYOKO

猫の脱走

先日、ゾウさんの姿が見えなくなった。私はベランダに出して、入れた覚えがなかった。普通は出ても短時間で入って来る。ベランダのガラス越しにこちらを見ていると、シグちゃんが「にゃあー」と鳴いて教えてくれる。教えてくれなくても気にはしているので、大抵気付く。リビングには私か夫がいるので、入れ忘れる事はない。しかし、なぜかその日、私が忙しかったのか、ゾウさんの事をすっかり忘れていた。ちょっと位待たせても、入ってからプリプリ怒っているが、爪を研いですぐ忘れる。すぐに入れてあげると「ニャア」と言うが、それが謝意だとは思っていなかった。旅行中に留守番を頼んでいる義妹に言われた。「ゾウさん、入れてあげるとニャア、てお礼を言うね。きっと、ありがとよって言ってるんだね」て。私もそうかと思って「ゾウさん、偉い」と思っていた。

それが家中探し、ベランダ中探し、これは落ちたなと思い、懐中電灯を出して、泣きたい気分で、柵の外の下の狭い一角を見る。でも、この柵から出られるのかなと思う。顔は出せてもあの極太の体は出まいと思う。そしてもう1度私の部屋を探す。「居た!」目の前の狭い棚の中にいた。なぜ、そんな所に入ったのか、窮屈そうにじっとしていた。保護色でもあり、それは意外な場所だった。

ゾウさん行方不明

この1年位前、ゾウさんが本当にいなくなった。玄関で宅急便などを受け取る時に出して、入れ忘れたらしい。それから何時間もそのことに気が付かなかった。玄関の戸はしっかりしていて、前足でカリカリしても音がしないし、泣いても部屋に入っていると聞こえない。ゾウさんはどんなに慌てたことだろう。廊下を右往左往して泣いていたに違いない。昼間なのに誰も気が付かなかった。廊下はコンクリの低い塀になっているが、ゾウさんは重くて飛び上がれない。しかし、所々に10㎝位の隙間がある。そこからも出られないはずだ。それが、1箇所14㎝位の隙間がある。たぶん、そこから下を覗いていて落ちたのだ。変な所から猫の声がしてくる。ゾウさんだ。でも、どこにいてどう行けばそこに行けるのか分からない。もう暗くなっていた。私たちは、声のする場所を探し、マンションの隙間らしきその場所へ行く方法を考えた。マンションの玄関を出て、建物のはじに狭い通路があり、柵状の入口がある。鍵が閉まっているので、夫はどこからか梯子を持って来た。梯子を上り、入口の柵を越え、柵の途中に足を掛けて飛び降りる。そして中から鍵が開いたので私も入る。壁に沿って行くと機械室のような所に出た。「ゾウさん、ゾウさん」と2人で一生懸命呼んで行くと、少し不審そうな顔をしていたがゾウさんが近寄って来た。ゾウさんは、3階から落ち、途中の屋根に引っ掛かり、ワンバウンドで下に落ちたのだ。汚れてはいたが怪我はしていなかった。少し打ち身はあったようだが大丈夫そうだ。夫は重いゾウさんを抱いて帰った。私はもうゾウさんを持ち上げる事はできない。やれやれ、ゾウさんもどんなに心細かったことか。ゴメンナサイ、悪いのは私です。

ゾウさんの家出

さらに遡る。まだゾウさんを保護したばかりの頃、前にいた部屋のベランダから脱走した。その頃は、まだスリムで大いに若かった。その時は、探したが1週間近く見つからなかった。保護した当時は、このマンションの駐車場でウロウロしていて、いろいろな人に食べ物を催促して、貰っていた。このマンションはペット可が売りで、ほとんどの人が犬か猫を飼っている。だからみんな動物好きで優しい。ゾウさんは皆に心配され、ご飯を貰っていた。だからうちを脱走しても食べるには困らなかったはずだ。1週間くらいして、前にねぐらにしていた場所で見つけた。屋根付きの狭い隙間で、ここの住人のおばあさんが、そこに毛布などを置いて世話をしていたのだ。ゾウさんは久しぶりに外の自由を味わったという感じで帰って来た。ゾウさんが自由に遊べる広い庭があればどんなに素敵だろう。

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