癌ステージⅣを5年生きて 31

散骨の風ディレクター KYOKO

東大病院入院

いよいよ肝臓の手術が始まる。私は手術2日前に入院した。採血、レントゲン、エコーの検査が有り、持参した薬を預け、薬剤師の人と話す。病院では、食事の度に必要な薬を渡され、ちゃんと飲んだか薬の容器をチェックされる。そして呼吸器訓練の道具を買わされ、口に管を咥(くわ)え、酸素を吸う力を強くする訓練を始めた。夕方、国土先生のチームリーダー、担当医の金子先生からインフォームドコンセントが有り、図を描いてどこが悪くて、どう切るかなどを説明してもらう。金子先生は、快活で堅苦しくなく、ざっくばらんで話しやすい先生だ。この後もずっと担当して頂くことになるが、夫も褒めるほど良い先生だった。

手術前日

前日には、麻酔科の先生とICUの看護師さんが挨拶に来る。空いている時間は自由に病院内を廻れるので、あちこち覗いて見る。入院病棟の1階には、コンビニのような売店が有り、郵便局、タリーズコーヒーがある。後にはレストランとカフェも出来た。15階には精養軒が入っている。外来病棟は、1階に小さい売店、地下にローソン、ドトールコーヒー、大食堂三四郎があった。入院病棟と外来病棟は長い長い廊下で繋がっている。

午後2時に下剤を投与され、夕食後は水以外禁止で9時にまた下剤を飲む。その間にシャワーを浴び、さらにお臍の中、周りを綺麗に拭かれる。ICUに変わる準備もしなければならない。身の回り品に名前を付けて運ぶが、他の荷物はコインロッカーなどに入れて、病床を空けなければならない。その夜私は、日頃から飲んでいる睡眠導入剤を飲み、興奮もせずよく眠った。

肝臓手術

朝は普通に6時に起きて体重を計る。歯は磨くが食事はしない。手術用の下着に着替え、開始の時間まで待つ。緊張はしないが落ち着かず、手持無沙汰である。夫の方が緊張していたかも知れない。私は意外に度胸もいい。それでも手術で嫌だった経験はある。両目の白内障の手術だ。部分麻酔であるから、短時間の手術でもとても嫌だった。それも手術の先生が最悪で、私の事を患者様と呼ぶ。そして慇懃に、右をご覧くださいませ。上をご覧くださいませ、などとバスのガイドさんでもないのに言う。その時は恐ろしくて、手術台の上からいつ逃げ出そうかと本気に考えた。左目、右目別々にするので、恐さを2度味わった。その男性医師、腕は良いのだそうだが、看護師さんも笑うほど評判が悪いらしい。結膜炎になった時、おじいさんの医者にいきなり目に注射をされた時より怖かった。

手術室in

8時50分、看護師さんが迎えに来る。手術室まで歩いて行く。夫も一緒である。東大病院の手術室は広い。夫と別れ、中に入るといろいろな医療チームで人々が固まっている。私も自分のチームに行き名前を言う。手術台に案内され、横になると「ロング&ワインディングロード」がかかっていて、嬉しくなりとてもワクワクした。これから私は眠り、目が覚めたら全部終わっているのだ。私は無責任に眠っていればいい。こんな楽な事はない。もともと私は寝るのが大好きなのだ。夢を見るとも思えない麻酔状態に入る。「眠れる森の美女」は、私の好きな童話だったが、目が覚めたら王子様が居ればいい。

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