癌ステージⅣを5年生きて 84

散骨の風ディレクター KYOKO

SORAのクスリ

先日は、SORAの病気がHappy end で終わった。しかし、そうではなかった。2日目の薬をあげた所までは良かった。次の朝、やはりトイレでおかしい。出たり入ったりして落ち着かない。オシッコが出ないのだ。わたしはベッドへ行って見て驚いた。3か所にタップリしてある。これでは出ないよな。ベッドにはSORAの寝床付近にペットパッドを敷いて、その上に古いバスタオルがそれぞれ敷いてある。だから布団には影響が無かった。

その後もSORAが起きてトイレへ行こうとしてベッドから降りたら、間に合わずそこで漏らしてしまった。そして現場は見なかったが、2回吐いている。私は副作用の事が頭をよぎった。それと薬の量の事も。急いで獣医さんに電話をしたが、お昼休みで留守番電話になっていた。それから1度SORAはベッドの下に潜り掛けたが、くい止めて定位置に寝かせた。先生から電話が来て様子を話すと、「薬が効くまで、普通10日位掛かるんです」と言う。驚いた、1時間で効いていたのだから。明らかに効き過ぎ、飲ませ過ぎだった。人間の薬だから、猫の場合量が難しいのだ。前に居た猫グリの糖尿病の時もそうだった。薬の量が決まるまで大変だった。結局、SORAの薬も半分の量にして毎日という事になった。

眠り姫のSORA

あれからSORAは眠り続けている。横になってではなく、いわゆる猫座という姿勢、足を折った状態で寝ている。その寝方は病気の猫の寝方だが、SORAはそれまでもそうやって寝る事が多かった。野生の動物の様に、いつでも逃げられる姿勢でという本能からだと思う。ゾウさんは横になって寝る。シグちゃんも基本的にはそうだ。しばらく様子を見ていた。薬が覚めるより待つしかないと思った。1時間で効いてしまったのだから、どうなっているのか分からない。ネットで検索して調べると、たしかに嗜眠と書いてある。1度様子を見に行った時は、寝ながらオシッコをしていたので、タオルとペットシートを変えた。その時は、目を開けるが朦朧としていて眠そうだ。

夜遅くなってもご飯を食べに来ない。見に行くとやはり寝ている

そばで一緒に撫でながら横たわると、ゴロゴロは言う。1日位ご飯を食べなくても大丈夫と思ったが、とりあえずチュールを口元に持って行くと1本分食べた。

心の痛み

その日1日、私の心はずっと痛んでいた。そんな事は初めてだ。今まで、いろいろな悲しみ、苦しみ、絶望、いろいろな負の気持ちは味わって来た。でも、心がこんなにも痛んだのは初めてだ。いろいろな災害に遭われた方々、犯罪の被害者の遺族達、ニュースを見れば心が痛む。自分が関われない所の不幸には、本当に心が痛む。今、私の傍らで物を喋れない自分の子供のようなSORAを見ていると、心の底まで痛むのだ。自分の至らなさ、やるせなさ、それは苦しみでも悲しみでも無くひたすら心が痛くてしようがない。そんな私を気にも掛けてくれない夫には、イライラが募り当たってしまう。悲しみも苦しみも我慢できるのに、この痛みだけはどうしようもない。私の左目も大泣きした後の様に腫れて浮腫(むく)んでしまった。四谷怪談のお岩さんの様だ。

私に子供が居たら、こんな思いが多かったのかも知れない。ちゃんと回復してくれれば良いが、先が見えない怖さがある。メンタルな病気というのは、内臓等の病気や怪我と違って、何も見えない。19歳という年では、このまま認知症になってしまう可能性だって無くはない。そうなっても小さな生き物だから、人間の介護よりも遥かに楽だと思うが。

SORAには随分助けられた。SORAの頭に顔を埋めた時の至上の快感。いい匂いの中、魔法に掛かり別世界にいるような気持ち良さで、俗の疲れが飛んでいく。ゾウさんはずっしりとボリュームがあって抱きしめれば温かくて心から安心する。シグちゃんにはそれが欠けている。シグちゃんは今流行(はやり)のあざといタイプだ。

その夜、どうしようもなくて寝る前にワインを半分飲んだ。お酒の力を借りる事など滅多にないのに。

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