風の中の私 10

──やっぱり懲りない書く事は──

9.11ニューヨーク

私たちは、夜のニュースを見ていてワールドトレードセンターのテロを知りました。それは誰にとってもショッキングなニュースで信じられない事でした。ワールドトレードセンターは、友だちが日本から来る度に行き、それ以外にもレストランで食事をし、家から離れていましたが、良く行った場所です。入る時のチェックは厳しく、夫は小さなナイフが見つかって、帰りまで観葉植物の所に隠させて貰った事も有ります。すでにエンパイアステートビルよりもニューヨークの象徴のような感が有りました。

最後にニューヨークへ行ったのは、その2年前3月、街が緑に染まるSt.パトリックデーの頃でした。それからニューヨークへは行っていません。ニューヨークは全く変わってしまいました。見知らぬ街の様です。人々は、懐疑的になり、悲観的になり、恐ろしい街になりました。世界一素晴らしいと思っていた場所が最低になりました。時間が経ち、一見元に戻ったかのようなニューヨークも、トランプが大統領になり、人種差別が肥大化し、コロナでアジア人の差別も生まれました。いまや憎しみの町、怒りの町と言った感じがします。

物価の値上がりも凄いです。私たちがニューヨークに居た頃は、円高で1ドルが80円代位でしたが、庭付きの2DKの古いアパートはセントラルパークの側で1000万円位でしたし、マンハッタンの真ん中に借りていた事務所も家賃は15万円位で、普通に広いワンルームでした。今は、倍処ではないでしょう。

それにしても私たちは、いつも災害に遭わず今日まで生きてきました。今のコロナが初めての災害です。阪神大地震の時は、ニューヨークのテレビで見て、高速道路が倒れるのが信じられず、オームの事件も向こうでした。ロサンゼルスで大地震が有った時も、私たちのヨットは国境を越え、メキシコのカリフォルニア半島に居ました。津波も有りませんでしたし、10日前だったらマリナ・デル・レイで遭遇していたかもと思いました。戦後に生まれ、高度経済発展期の日本で、大きな経済の渦には関係ない低所得者でしたが、時代の恩恵を受け、平和に火事にも洪水にも台風の被害にも遭わず、今の所コロナにも成らず、こうやって生きているのは、未来の不安的要素を考えても、本当に良い時期に恵まれて生きて来たのだと思っています。

これから日本の宿命として起こる地震、富士山の噴火、尖閣諸島を巡る中国問題、新たな病原菌、温暖化による気象的悲劇など、未来に明るい事は考えられるのでしょうか。私にしてみれば、時代はもう充分発展したと思えるのですが。個人的にはAIよりも過去の哲学的遺産の方が大事です。コンピューター任せにしないで、個人が脳を使い、本を読み、心を深める事が大事だと思っています。それは、時間の使い方の問題かも知れませんが。現在を大切にして、いつ死んでもいいような時間を持つ事が、優先されると思うのです。本当に人は豊かになっているのでしょうか。

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