風の中の私 18

──やっぱり懲りない書く事は──

「猫より素敵な商売はない」

ニューヨークに着き、アパートを買うまでは、マンハッタンのあちこちのホテルを転々としました。初めて来た時は、ツアーのホテルだったので、よく利用されるミッドタウンの古い中級ホテル「ルーズベルト」でした。広めの部屋に、Wベッド2つのツインです。
2回目は、「地球の歩き方」で探した44丁目のブロードウェイにほど近いアルゴンキンホテルです。ここは☆☆位のやはり古い小型ホテルです。ここは内装がアンティックで、スタッフも高齢者が多く落ち着いたホテルでした。ここには、有名なハムレットと言う名前の猫が居るはずでした。どこにいるか分からなくて、スタッフの人に聞くと、「ほら、あそこにマチルダがいます」と言う。柱の陰をよく見るとグレーっぽい色の縞のある小柄な猫がいます。もう、何代目に成るのかは忘れましたが、牡はハムレット、牝はマチルダと名付けられていつも猫がロビーに居るのです。初代ハムレットの事が書かれた本が、「猫より素敵な商売はない」です。このホテルはブロードウェイにも近いので、芝居関係の人に良く使われていました。ホテルの2軒先に名門ニューヨークヨットクラブが有り、初代ハムレットはよく遊びに行っていたようですが、とても格式が高く普通の人は、とても入れて貰えません。外から覗くと、赤い絨毯が敷き詰められているのが見えました。マチルダはお客に媚びたりせず、「多少触らせてあげるわ」と言う感じでのんびりとロビーで寛いでいます。私たちは、猫のいる風景を眺めるだけで幸せな気持ちです。

アルゴンキンホテルは、マチルダがいるのに猫と一緒には泊まれません。ですから、そこに泊まったのは、グリを貰う前か、グリが東京に居た時でした。ヨットが着いてハドソン川のマリーナに泊めてから、ペット可ホテルを探すようになりました。最初はチャイナタウンのホリデーインです。私たちは泊まる所にお金を掛けず、食べる事にお金を使います。でも、チャイナタウンは両方安く、その独特の雰囲気も面白く、朝はお粥を楽しめました。チャイナタウンの隣は、リトルイタリーです。マンハッタンは、47丁目のダイヤモンド街はユダヤ人の縄張り、アッパーイーストの辺りにはロシア人街、ミッドタウンにコーリアン街も有ります。チャイナタウン以外は、みな小さくて通りの一画と言う感じです。ソーホーは芸術家の溜まり場でしたね。

アルゴンキンホテルと同じ通りに5軒位離れてイロコイズホテルが在りました。日本語になると色恋で、私たちも色恋、色恋と呼んでいましたが、本当はイロクォイなのです。アルゴンキンもアルグォンクィンで、両方ともインディアンの名前です。そのイロコイズホテルは、やはり古くて値段も安く、スウィートルームはペット可でした。そのスウィートにグリを連れて1週間泊まりました。そこは2部屋にキッチンが付いて、広いベッド2つでしたが、100ドル位だったような気がします。でも友だちのKちゃんに言わせれば、100ドルは大金で、100ドル札なんて、どこでも使えないと言われました。確かに偽札のチェックが厳しく、スーパーなどでもマジックインキを塗って確かめられたり、透かしたり、レジで顰蹙(ひんしゅく)でした。グリを部屋に残し、外出するときは、お掃除のおばさんに、猫がいるので、戸を開けないように行って出かけました。帰って来ると、そのおばさんが、手招きします。同じフロアーの突き当りの部屋に来るようにと。訳が分からず、そこに行くと、そこにグリが居ました。いいえ、そっくりな別の猫でした。ロシアンブルーのようなグレーで、大きさもグリと同じぐらい。びっくりしました、こんな偶然が起きるなんて。何だか嘘の様でした。でも、私たちの部屋にはグリが居て、ちゃんと待っていました。一緒に泊まる時は、いつもトイレと砂と爪とぎ、キャットフードを持って行きます。アメリカをドライブした時は、ベストウエスタンの様なモーテルによく泊まりました。グリはお行儀が良いのが自慢でしたが、時には見えない所で爪を研ぎます。ベッドの下です。あまり鳴かないし、車の中でも後ろのシートで大人しく寝ているので、本当に楽でした。

私たちは、長期滞在型の安いホテルを探しましたが、病人ばかり居る様な不潔な感じのホテルも有り、そこはさすがにパスしました。日本人が持っているアパートの部屋も有りました。そこは、電気釜から、お茶碗、お皿など何でも揃っていて、それ程高くは有りませんでしたが、予約が入っていて、続けて何泊も出来ませんでした。マンハッタンのかなり上、ハーレムより少し下位にやはり1部屋の貸し部屋が有りました。そこは半地下で、あまり広くなく、取り敢えず落ち着きましたが、夜になってびっくりしました。半地下の窓にカーテンが無いのです。歩いて行く人が良く見えますが、こちらも丸見えです。慌てて、シーツなどを窓の壁に貼り付けました。

ニューヨークのホテルは、シーズンや需要によって値段が変わります。ある時、いくら探してもホテルが見つからず、やっと見つけたホテルは、もうハーレムでした。それもベッド2つでやっと歩けるくらいの隙間しかない狭い部屋で、その時はグリが居なかったのですが、スーツケースを広げる隙間も無く、それなのに今まで泊まったホテルの中で1番高かったのです。1晩500ドル以上しました。ニューヨークコレクションとかで、ファッション関係の人が沢山来ていたという事です。
逆に有名な名門ホテルプラザが安かった事もありました。ペットも可でした。広い部屋でしたが、古くてあまり高級感は有りませんでした。それでも下のアーケード内の高級品店やバーの雰囲気が良かったです。

一流ホテルは、泊まれないので、よくバーだけ利用しました。アルゴンキンホテルのバーもバーテンさんがお年寄りで居心地がよくて、そんな方のお話も良かったです。そのホテルのレストランで、朝食を食べ、夫が迎え酒にビールを頼むと年寄りのウェイターから、「朝からお酒を飲むものでは有りませんよ」と言われてしまいました。
マンハッタンは、アメリカとは言えません。とても洒落て、エネルギーに溢れて、古いビルの一つ一つがユニークで素敵です。あらゆる最高の物があり、狭い島なのにいろいろな顔を持っています。お金があれば、全てが可能に思える街です。ホームレスも居ますが、ビジネスマンは颯爽とし、観光客は楽しげです。限りない自由と希望に溢れている街、ここはアメリカでは無く、地球の上の特別区です。アメリカは、ほとんどが田舎です。歴史がないから文化も無く、広大な自然だけが、素晴らしく偉大です。これは、9.11前のニューヨークです。

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