癌ステージⅣを5年生きて 59

散骨の風ディレクター KYOKO

死ぬとき

一昨日、とても具合が悪かった。胃は消化能力を無くし、体もヨレヨレで、立って動く事が辛い。私は、「ああ、もうダメかもしれない」と思った。経験してない過程であるから、どういう風に死に向かうのか分からない。予兆も知らない。でも、一昨日は確かに近いなと思った。もう、何もできない。少しでも力が出れば、片づけたい物もある。綺麗にして置きたい。私は力なく、あと1カ月は無理だな、オリンピックもダメかと思った。早ければ2週間か。最近食欲が無かった。お腹も空かない。私は本も読まず、SORAを抱いてコンコンと寝た。寝続けた。夫は台所の洗い物をしてくれたが、私が「もう死ぬ」と言っても「死ぬ死ぬ詐欺だ」と思っていて取り合わない。優しくもしてくれない。「私はこのまま死んだら、いい人生だったと思えないから」と言ってもだめだ。私は悔しいから「死んでやる、ご飯食べない。即身仏になる」と言ってご飯を食べるのを止めた。

昨日は仕事が入っていた。私は朝花かごを作って、夫を送り出した。寝ようとしたが、一昨日とは打って変わって体が軽い。胃の具合もとても良い。まるで新しい胃になったようだ。もう、意地を張って即身仏に成るわけには行かない。夫とも仲良くしよう。頑張って出来るだけ生きよう。だけど少しずつ物を整理しよう。死ぬと決まればのんびりするだけだと思う。それで済めば楽しみだ。決まった事なのだから。

本当の詐欺師

私たちは、よく詐欺師に会う。私たちが騙される訳ではないが、知人が詐欺師だったのだ。でも、それとは別に、最近はやりの電話詐欺にも遭った。それは2年位前だが、スーパーで買物中に電話があり、アマゾンの未払金が30万円ある。旦那さんのだ」と言う。そして、今日中に振り込まないと裁判になる」と言うのだ。私は夫の未払いは有るかも知れないと思ったが、今日中というのがどうも怪しいと思った。いろいろ詳しく聞いても何だか訳が分からない事を言う。それで、夫が側にいたので、代わってもらうとすぐに切れた。まさか私が詐欺にと、そんな確率で掛かって来るのに驚いた。

結婚詐欺

かなりの昔だ。アメリカ村に住んでいた頃、変な人と知り合った。夫が駆け出しのカメラマンだった頃、突然電話が掛かって来た。「実は、篠山紀信先生に頼もうと思ったんですが、スケジュールが合わないので、北田先生にお願いしたい」と言うのだ。私たちは笑ってしまったが、一応話は聞こうと思い、事務所に呼んだ。体の大きな同年配の男がスポーツカーでやって来た。最初から怪しいと思い、でも実害が無さそうなので、彼が話す事を聞いていた。お父さんは八王子の警察署長だと言う。そして自分は大きな眼鏡屋をやっているので、そのカタログの写真を撮って欲しいという。仕事の話をしながら、色々な事を話す。「自分は、目の前で最愛の彼女が車に轢かれて死に、もう人を愛することが出来ないんだ。」とか「新宿のルミネの副社長は俺の愛人だった」とか実に変な事を言う。私たちは一応真面目に、「へえ、そう何ですか」などと相槌を打っていた。

それからしばらくして、車を飛ばして来て「やばい、サツに追われている、匿ってくれと言う」変だなと思ったが、ガレージに車を隠してあげた。そして「朝から何も食べてない」と言うので、私は仕方なくオムライスを作った。当然追手など来ず、散々ほら話をして帰った。彼に会わなくなって、大分経った頃、モザイクの顔がテレビに映っていた。結婚詐欺師にその手口を聞いていますと言うのだ。モザイクが掛かっていてもそれは間違いなく彼だった。私たちは唖然としたが、彼らしくて可笑しくて笑いが止まらなかった。私たちには笑い話のタネの罪の無い人だったが、被害に遭った人には同情することしか出来ない。2度と会う事は無かったから。

もっと悪い結婚詐欺

居酒屋などで顔見知りの男がいた。小太りで、頭が薄くどう見てもモテそうもない人相だ。それが噂によるとどうやら大分女の人を騙しているようだった。お酒の席では、面白い話題だった。どうやらその人I氏は、かなり頭が良い。狙った女の人の趣味や、知識を全部勉強して話題を徹底的に合わせ、彼女の気に入るように振る舞うらしい。例えば、映画好きなら、話題の映画は勿論、映画監督、映画スター、昔の作品、マイナーな物、映画の中のおしゃれな会話などを盗む。至れり尽くせりに尽くす。

ある日、常連の素敵な女の人が周りにいた男の人をみんな誘って2軒目に飲みに行った。私は行かなかったが、I氏も夫も行った。どうやってどこまで行ったかは、知らないが、全員で彼女の家に泊まって雑魚寝だったという。その中でそのI氏は、朝早くからお掃除をし、お風呂の水道の蛇口をピカピカに磨いていたという。

それからしばらくして、その女性に子供が出来た。正式かどうかは分からないが、彼女はI氏と結婚した。が、すぐ離婚した。彼女は有名なデザイナーブランドの営業部長だった。優秀で仕事熱心で、男勝りのやり手でカッコ良かった。大分生まれで、「私、生まれは良くないけど、自分で自分を育てたから育ちは良いのよ」と言っていて、営業で相手先と遣り合う時は、「おんどりゃ、めんどりゃ、卵産みやがれ」って、鏡の前で練習するのよと、言っていた。子育てに忙しい彼女は会社を辞めた。預金を大分取られたのかも知れない。でも優秀な彼女は、どこに勤めてもバイタイリティで乗り切るだろう。

後日、別のバーでI氏は、カウンターで女の人と並んで、何かを話していた。どうも資産家のお嬢さんらしく、不動産や相続の話をしている。かなり信用されているという感じだった。部外者の私たちには、傍観しかない。しかるべき人が何とかするしかないだろう。

ニューヨークの探偵

ニューヨークへ最初に言った頃、信用できる人の友達で、探偵だという人に会った。この人も話が大きい。ある授業で「隣にマドンナ」が座っていたとか、近所にドミンゴが住んでいて、毎日発声練習がうるさいとかいう。挙句の果ては、「実は、私は天皇家の血をひく者だ」という。そして彼は、いつもピストルをベルトや脇の下、足首に3丁も持っている。もう、その人には会いたくないと思った。それが不思議なことに、彼は沢木耕太郎のノンフィクション「若き実力者たち」だったと思うが、それに出てくるのだ。彼も騙されたのだろうか。

他にも怪しい人はいたが、書けばきりがない。

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